受け入れが拡大されていく外国人労働者。4月に改正入国管理法(入管法)が施行され、新たな在留資格が設置された。背景には深刻な人手不足がある。ただ、既に指摘されているのが「将来、流入する外国人労働力が日本人の仕事を奪うのでは」という懸念だ。

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 実際、代表的な移民国家である米国では、「プアー・ホワイト」と呼ばれる貧しい白人層が政府の従来のグローバル化や移民政策に不満を募らせ、トランプ政権の強い支持基盤になっている。一方で米国への移民が若い才能を醸成し、ITを始めとした成長産業を国内に生み出してきた経緯もある。

 日本の“移民”解禁は果たして日本人から仕事を奪い、その結果、外国人労働者への不満を募らせる“プアー・ジャパニーズ(貧しい日本人)”を生むのだろうか。また、逆に事実上の移民である外国人労働者のなかから将来、日本版スティーブ・ジョブズが誕生し、日本経済を新たな成長軌道に乗せる可能性も考えられる。もしかしたら今、日本社会はちょっとした岐路に立っているのかもしれない。

●「日本国内の工場から日本人が消える」

「日本はこれから、米国と同じ道をたどるでしょう。すなわち、日本国内の有力な工場から日本人が消えていく」。こう話すのは、経営コンサルタントの大澤智氏だ。

 大澤氏は1980年代前半に、世界最大の半導体製造装置メーカーである米アプライドマテリアルズの日本法人に入社。装置を据え付ける現場エンジニアでキャリアをスタートさせ、2000年代には日本法人の執行役員を務めて退職した。この間、米本社にも勤務した経験を持つ。

 1980年代半ば、シリコンバレーの工場から送られてくる製造装置を、日本の東芝や日立の半導体工場に搬入しようとすると、ポテトチップスの破片が梱包装置の隙間に紛れていた。「米国の工場で働いていたいわゆる“プアー・ホワイト(貧しい白人)”の食べ残しでした。白人は工場に半数はいて、食べながら作業をしていた」と大澤氏。

 ところが、90年代に入ると、梱包を解いても菓子はもちろん、異物が落ちていることは無くなる。

「どうしてだろう」と、最初はいぶかっていた大澤氏だが、カリフォルニア州サンタクララにある本社工場を定期的に訪れるうち、ある変化に気付く。

●働き手がプアー・ホワイトから移民に

「工場から、白人がいなくなっていたのです。製造現場から、プアー・ホワイトが消えた。白人に代わり、ヒスパニック系やアジア系の移民が働くようになった。移民たちは、プアー・ホワイトよりもやる気があって、能力も高い。正確には移民のなかでも優秀な部類の人たちが、働き出していた。変化はほんの、5、6年の間に起きました」(大澤氏)。

 白人から移民にワーカーが代わる現象は、半導体メーカーインテルや機器メーカーヒューレットパッカード(HP)など、シリコンバレーのハイテク工場で同時に起きていた。

 それまで、日本企業から追い上げられていた米国のハイテク企業だったが、優秀な移民ワーカーが増えたことで競争力を再び取り戻していった。

「ただし、プアー・ホワイトは、工場を追われました。すると都市が崩壊していった。格差は広がり、リッチ・ホワイト(裕福な白人)は郊外に大きな家を建てて移住。シリコンバレーの中心都市であるサンノゼのダウンタウンは衰退し、危険極まりない場所に変貌します。ロサンゼルス暴動が発生した1992年頃の話です」と大澤氏は話す。

 移民にハイテク工場の職を奪われたプアー・ホワイトは、低い時給の仕事に甘んじることになる。彼らは、2008年リーマン・ショックを経て、「アメリカファースト」を訴える大統領候補、共和党ドナルド・トランプ氏を支持して、彼の大統領就任に貢献する役割を果たした。

●イノベーションけん引する移民の子たち

 一方で、ハイテク工場で安定した職(ジョブ)を得た移民たち。彼らはやがて結婚し、蓄財し、子供たちに高等教育を受ける機会を与える。

 「カリフォルニア大バークレー校やスタンフォードなどトップクラスの大学、人によっては大学院に進む移民の子があらわれます。卒業すると、シリコンバレーの企業の研究開発部門に就職する。両親のようなワーカーではなく、エンジニアとして。現在は、AI(人工知能)をはじめ最先端分野をけん引しています」と大澤氏は解説する。

 世代をまたいで、アメリカ経済を、そしてイノベーション(技術革新)を移民たちはけん引していく。

 なお、アメリカで企業に幹部(エグゼクティブ)候補として就職する場合、日本企業のような大卒4月一括採用もなければ、総合職といった曖昧なポジションもない。日本の労働基準法に当たる公正労働基準法(FLSA)から除外される「エグゼンプト(exempt)」で入社する。残業時間に制限はなく、一日に16時間でも働く。それでも残業代はつかない。

 エグゼクティブの一番下の職位であるディレクターに出世できれば、若くても10万ドル以上の年収を手にできる(成果は求められるが)。シニアディレクターバイスプレジデント(VP)といったジョブグレードの高い職位への出世も可能となっていく。

 また、ベンチャーとして起業し、やがてIPO(株式公開)により巨万の富を手にする移民もいるし、これからも続くはずだ。一般論だがシリコンバレーでは、「一番優秀な人は起業し、次に優秀な人は就職し、できない人が公務員になる」と、日本とは逆の考え方である。大手に就職しても、起業のためすぐに辞める人も多い。

GAFAの創業者はみな移民系

 GAFAガーファ)は、GoogleAppleFacebookAmazonを指す造語だ。「Appleと他の3社を一緒にするのはおかしい」という指摘はある。が、4社の売上高の合計はこの10年で7倍にも成長し、米国をはじめ世界経済を引っ張り人々の暮らしをも変えている。そんな4社の創業者たちは、みな移民系という点で共通する。

 Googleの創業者セルゲイ・ブリン氏はロシア系移民1世であり、Appleスティーブ・ジョブス氏はシリア系移民2世として知られ、Facebookの創設者の一人エドゥアルド・サベリン氏はブラジル系移民1世、Amazonジェフ・ベゾス氏はキューバ系移民2世(母親の再婚相手がキューバ系)だ。イギリス系、フランス系、ドイツ系、オランダ系の米国人ではない。また、特別に裕福な家庭の出身でもない。

 GAFAをはじめアメリカ経済の成長は、優秀な部類の移民たちによる貢献が大きかった。プアー・ホワイトが、時給は低くとも仕事を得られているのは移民たちのおかげでもある。

●「日本も米国と同じ流れに」

 では、これまで聖域とされてきた単純労働を外国人に開放した日本は、アメリカと同じ道をたどるのか。

 改正出入国管理法(入管法)が4月に施行され、就労を目的とした新たな在留資格「特定技能」が1号と2号の2段階で新設された(1号は在留期間5年に対し、上位の2号は在留期間更新が無制限で可能)。対象となる業種は、介護やビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造、自動車整備、建設、宿泊、農業、外食など14。受け入れ国は当面、ベトナム、中国、インドネシアフィリピン、タイなどアジアの9カ国。これから5年間で約34.5万人の受け入れを、いまのところは見込んでいる。

 「日本も、米国と同じ現象は起こるでしょう」(米国でのビジネス経験が豊富な電子部品メーカー社長)という指摘はある。

 日本人外国人かではなく、能力の高い人を起用していかなければ、企業は生き残れない。優秀な人が集まれば、日本企業は生産性を向上させて、競争力を高めていける。日本型モノづくりの再興にもつながっていく。

 今回の入管法改正の背景には、急速な高齢化と人口減少に伴う極端な人手不足がある。これらは同時に国内市場の縮小も招いている。

●“移民政策”明確にしないとモノ作りで敗北

 ただし、喫緊の人手不足解消だけではなく、とりわけお家芸であるモノ作りにおいて、産業構造にまで踏み込んで外国人労働者を活用していく必要に本当は迫られている。

 平成のほぼ30年間で、半導体をはじめ、リチウムイオン電池、液晶、有機ELフラッシュメモリーといった先端分野で、日本は韓国と中国に追い越されてしまっている。リチウムイオン電池、有機ELフラッシュメモリー、は日本の開発技術なのに、である。

 さらには、リチウムイオン電池が搭載され先端技術の象徴でもある電気自動車(EV)も、日産や三菱自動車工業が最初に量産を始めたのに、直近では中国企業に販売台数で負けているのだ。

 韓国や中国、さらには米国に対し、逆に日本が優位なのは、技術力のある中小企業が数多く集積している点だ。中小企業には、高い技能を持った職人がいる。職人をリスペクトするカルチャーもある。

 しかし、中小企業の問題点は事業承継に加え、職人がもつ技能の継承者が少ないことだろう。本当は、外国人労働者を継承者としても起用したい。しかし、「特定技能」では職務内容が厳格に規定されているため、これが難しいのだ。

 日本政府は外国人労働者を「移民ではない」と主張し続けている。このため、外国人を育成するための柔軟さが欠如(けつじょ)しているのだ。1号での在留期限が5年に制限されているのも、雇用側にとってはネックである。「1号のままだと、これから現場のリーダーにと考えても、帰国させなければならない」(自動車部品メーカー幹部)という声は強い。

 今回の入管法改正についても、「日本政府はまず、ドイツのように『移民政策』であると明確にするべき」(ヨーロッパの移民政策を専門とする浜崎桂子立教大学教授)といった指摘は少なくない。

●特定技能の労働者は外国人版「おしん」

 日本で働く外国人は、約146万人(2018年10月アルバイト学生なども含む)。この10年間で約100万人増加した。意外に思われるかもしれないが、大卒など高学歴外国人にとって、すでに労働市場が開かれた国の1つである。

 日本の大学や専門学校、あるいは自国の大学を卒業していれば、日本でホワイトカラーとして働くことは容易なのだ。大卒者ということは、大半は富裕層の子女である。これに対し、過重労働などで何かと問題が多い技能実習もそうだったが、今回の特定技能の外国人労働者は、富裕層の坊ちゃんやお嬢さんではない。

 若くとも艱難辛苦(かんなんしんく)を経験し、海を渡り日本にやってくる人たちだ。現在NHKがBSで再放送している、30年以上前の連続ドラマ「おしん」とも人物像が重なる。

 「おしん」がそうであるように、奉公先で商売道をたたき込まれ、やがて自ら事業を起こしていく。こんな外国人労働者も今後現れれば、日本人の雇用を広げてくれるだろう。アジアから来たおしんが躍動し、さらに20年後には移民二世から日本版スティーブ・ジョブズが誕生して、日本経済が飛躍的に発展していくかもしれない。

 異才たちによって新しい未来は開ける。そのためには、事実上の移民を職場でいかに生かして育成していくかが日本企業に問われている。

 異質を受け入れるのは容易ではないし、競争から格差は広がる。プアー・ジャパニーズはもちろん、現状でも高学歴のプアー・フォーリナー(貧しい外国人)が生まれてきている。それでも、ダイバーシティー(多様性)を求めてやり抜いていかなければならない。いや、本当はもっと早く、事実上の移民を受け入れるべきだった。

日本人の雇用確保を ただし年功賃金維持は困難

 日本自動車工業会会長を務める豊田章男・トヨタ社長は、5月の自工会総会後の懇親会で、「このまま国内生産が減ってしまうなら、雇用は守れなくなる」と発言した。ちなみに、自動車関連の雇用は、500万人以上と規模が大きいため、発言のインパクトも強烈だ。

 平成初期には、日本の自動車産業全体の連結売上高は約30兆円で、国内の売上高が約24兆円と8割を占めていた。ところが、18年度は連結が約75兆円に対し国内は30兆円と構成比は4割。海外市場に依存しているのである。

 人手不足から隠れているが、日本のモノ作りも雇用も危機的な状況にある。それだけに、外国人の活用による国内のモノ作りの再強化は急務なのだ。

 ただし、社会の安定のためには日本人の雇用確保は欠かせない。”プアー・ジャパニーズ”を失業者やニートにしてはならない。そのための前提が経済成長の継続であるのは言うまでもない。多少の不満はあっても、最低限の雇用が維持されて、毎月の給料を得られるなら暴動は起こらないはずだ。胃袋が満たされれば、人は無茶をしない。

 現実として、日本企業は米国企業のようなレイオフ(一時解雇)はできない。工場なら、優秀な移民が最終検査などの重要な工程を担い、パフォーマンスを発揮できない(あるいは発揮しようとしない)プアー・ジャパニーズは、バックヤードなどの重要でない仕事に配置転換される形となろう。その場合、年功賃金はもはや無理だ。職で賃金が決まる職務給の運用にどこまで迫れるかなどがテーマになっていく。もちろんプアー・ジャパニーズ、プアー・フォリナーの再生のための再教育も求められる。

 波風は必ず発生する。しかし、外国人とともに働いていく、内なるグローバル化はもう止めることはできない。止めたなら、多くを失ってしまう。

【画像】“移民解禁”は日本人から仕事を奪うか


(出典 news.nicovideo.jp)


<このニュースへのネットの反応>

既に人命や繁殖の機会を奪っていますが…


いやー日本人のくせに移民と同レベルの仕事しかできない奴が悪いっしょ。むしろ普通レベル以上の日本人にとっては部下の数が増えるから、仕事が楽になって嬉しいんじゃないの?


その問題が社会現象化する前に生活保護がパンクしそう


すでにパンクしてるんだけどな